岩手県の旅:花巻温泉郷・大沢温泉

 花巻の温泉は大きな地図で見ると、単に花巻温泉と記されているだけだが、詳しい地図や観光案内書によると市内13箇所に散在し、それぞれに温泉名がつけられている。市の観光協会はそれをひとくくりにして「花巻温泉郷」として宣伝している。
 宿が一番多いのは台温泉で17軒、次いで花巻温泉が5軒、後は1温泉1~2軒の宿となっている。花巻駅前からのバスルートは、花巻温泉を経由して台温泉に至るルートと、志戸平温泉に始まり、渡り温泉、大沢温泉、山の神温泉、高倉山温泉、鉛温泉、を経由して最奥の新鉛温泉に至る、大別して二つのルートがある。

 平成24年5月28日、宮沢賢治ゆかりの地の探訪を終り、観光協会が探してくれた大沢温泉に泊まるため、17:15花巻駅前発の送迎バスを待つ。どうやらこのバスは沿道の7温泉が共同して運行しているらしい。バスは志戸平温泉あたりから平野と別れ山の中へ分け入る。大沢温泉前でバスを降り、迎えてくれた宿の人と共に緩い坂道を下り、豊沢川に架かる橋を渡って大沢温泉菊水館に投宿する。
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          川のほとりの大沢温泉(建物は自炊部)

 大沢温泉には自炊部、菊水館、山水閣の三つの宿があるが、お風呂はどこへ入ってもよいと説明を受け、一つの経営体で三つの帳場に分かれているのだと知る。
 最初は自炊のみの湯治場として発足し、次いで自炊を好まない湯治客用に菊水館が生まれ、さらに団体客も受け入れ可能な近代的な施設として山水閣が建てられたのであろう。建物の新しさ、豪華さからもそれがわかる。
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            大沢温泉自炊部玄関

 菊水館の宿泊棟が藁ぶき屋根であることに思わず目を見張る。藁ぶき屋根の温泉宿なんて初めてだ。宿泊棟の隣には今は使われていない水車小屋が残されている。対岸には自炊部の大きな露天風呂が丸見えで、風呂のほとりは川が瀬となって流れている。自炊部の上手には鉄筋コンクリート造りの山水閣がどっしりと建っている。自炊部へ渡る木橋は「く」の字の曲り橋で風情がある。
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            菊水館の藁ぶき屋根の宿泊棟
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        菊水館から対岸の自炊部へ渡る曲り橋(旅館専用)

 宿のパンフレットを読むと宮沢賢治も高村光太郎も何度も訪れたとあり、藁ぶき屋根の建物は150~160年前に建てられたと推測され、幕末の南部藩主も訪れたと書かれている。藁ぶきの宿泊棟は平屋で、9室ぐらい(菊水館全体で全17室)あるようだ。廊下から入るとすぐ8畳の間で外側に縁がついて火鉢が置かれている。トイレも洗面所も共同利用、食堂で食事をするようになっている。食事には懐石風にお品書きが添えられ、食材の内容説明つきで7品が書かれている。私には十分満足の内容だ。
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            火鉢の置かれた宿泊室の縁側(眼下に曲り橋)

 夕食前に菊水館の南部の湯につかる。こじんまりした木造の浴槽で浴室の2面は開放されて緑の木々を通して眼下の川が眺められる。大沢温泉はアルカリ単純泉だからすっきりした湯上りだ。
 夕食後は他の露天風呂を梯子をしに出かける。自炊部の大浴場・薬師の湯は露天ではないが天井がとても高く時代を感じさせる。自炊部の建物を通って山水閣の豊沢の湯に入る。浴槽は屋根の下だが広く立派で、前面には川が瀬となり白波を立てている。対岸は大木が生い茂り、ライトアップで目を和ませる。
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            菊水館の南部の湯の外観
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             南部の湯のすすぎ湯

 帰りに再び自炊部の前を通ると、コンロを無数に置いた炊事場と洗い場があり、自炊の人はここで炊事をするのだろう。売店の前も通るが小さなスーパーのように広く充実した感じだ。生鮮食料品を始め、自炊に必要なものは何でも整うのだろう。
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              自炊部の売店
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             自炊部の共同食事場

 最後に、宿に着いたとき目に入った大露天風呂・大沢の湯につかる。脱衣場は屋根下だが浴槽は満天星の下で、同時に30~40人は入れるだろう。この時間、入浴者は他に一人だけで静かに川の瀬音に耳を傾ける。
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           大露天風呂・大沢の湯(右は豊沢川)

翌朝、宿泊料を精算すると7290円という。ビジネスホテルに泊まって外食してもこんなに安くは済まない。しゃれた夕食を食べ、野趣あふれる露天風呂につかり、ひなびた藁ぶき屋根の下で眠ってこの料金には大満足だ。やはり、温泉旅館は民宿とは一味違う。
 8:02発の岩手県交通の定期バスに乗り、8:28花巻駅前に着く。バス料金は620円である。

この記事へのコメント

http://www.fetang.com/
2013年08月03日 04:51
お世話になります。とても良い記事ですね。

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