秋の信濃路 (1):鹿教湯温泉 

平成26年10月30日 (木) 晴れ
 信州の秋を楽しもうと名古屋駅10時発の長野行き特急しなの7号に乗車する。木曽路に入ると見事に全山黄葉した山が間近に迫り、俳句歳時記の季題ともなっている「山装う(やまよそおう)」とはこの光景だと讃嘆する。真っ青な空には白雲がぽっかり浮かび、いやがうえにも旅ごころを盛り上げる。しかし眼下の木曽川は岩がゴロゴロしてるのがやけに目につく。水量が少ないためで、あちこちにダムがつくられ流量が制限されているのがわびしい現実だ。わずかに名勝寝覚ノ床が深い淵となって往時の木曽川を偲ばせる。

 塩尻が近くなると山は遠のき松本平に入ったことを知覚する。塩尻近辺はぶどう棚が目につき豊饒な地を思わせる。12:04松本駅に着き下車。信州は遠いところと頭に刷り込まれているが2時間で着いてしまう。切符は大糸線の穂高駅まで買ったのだが、ジパング倶楽部の3割引を利用すると特急料金も含め名古屋から往復9千円弱で行くことができ、もっと信州の旅を楽しまねばと思う。
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              松本駅前

 松本は国宝松本城や北アルプス、上高地、美ヶ原への玄関口とあって観光都市として瀟洒な通りやおしゃれな店が多い。通りの蕎麦屋さんへ入って昼食をとるが、バスの発車時間もあって松本城は遠望するだけで見物はあきらめる。今日の目的地は古くから知られた湯治場である長野県上田市鹿教湯(かけゆ)温泉である。関西、中京方面からこの温泉に行くには、上田駅を経由するなら乗換、乗換、に時間を取られるので、便数は少なくても松本から直行するのが利口と判断する。駅東口近くの松本バスセンターから1日2便しかない14:15発(最終便)の鹿教湯温泉行きのバスに乗車する。

 松本郊外に出ると国道254を走るが、屋敷や農地の傍らにポツン、ポツンとたわわに実を付けた柿の木が目につく。今まさに秋だと実感させる風景だが、いまだに実を付けているいるというのは恐らく渋柿であろう。かっては干し柿や柿渋の用途があったものが、今は手間を惜しんで収穫されないまま樹上で朽ちているのが、どの地方も同じ現状だ。
 黄葉の山が近づきトンネルの入り口近くでは標高900mの道路標識が出てくる。長い三才(みさ)山トンネルを抜けると、そこは上田市、北信濃だ。このトンネルの完成のおかげで松本と鹿教湯が一気に近い距離となり、50分、1200円の運賃で鹿教湯温泉に着く。

鹿教湯温泉
 鹿教湯(かけゆ)は谷あいの小さな川沿い湧く、江戸時代から続く湯治場で、中風に効く名湯として知られてきた。近年は「リハビリテーションセンター鹿教湯病院」や「クアハウスかけゆ健康センター」も設置され、中風、高血圧、動脈硬化、交通外傷などに悩む療養客が多い異色の温泉地となっている。その証拠に温泉街や公園地を松葉杖を突いたり車椅子で散策する人の姿を、私自身再三見かける。街角や公園には飲泉所が何箇所もある。地名の由来は、湯がわき出ていることを鹿が猟師に教えた、その鹿は実は文殊菩薩の化身であったことに因るという。
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        環境庁指定国民保養温泉地の碑
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          温泉街の通り

 温泉街の中心部に近いバス停で降り、とある宿にお世話になる。周囲を見渡すと廃業したお店や閉じた木造の旅館が散見される。移転して営業を続けている所もあるのかも知れないが活気は感じられない。観光資料によると旅館組合加盟数は21とある。
 宿に荷物を置くと早速カメラを提げて散策に出かける。宿にほど近いメインの散策地、重要文化財文殊堂方面へ足を延ばす。温泉街から緩い坂道を下ると内山川のせせらぎに架かる屋根付き橋に出る。どこかの雑誌で見かけて以来、実はこの橋を撮りたくてやって来たのだ。五台橋と言うその橋は湯煙の中にあるのかと思っていたがそうではなかった。しかし、トタン葺きながら黄葉に囲まれたひなびた風情は思ったとおりだった。橋の中ほどに湯治客が休む粗末な腰掛が置いてあるのも好もしい。
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          温泉街から五台橋へ下る中風坂
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          屋根つきの五台橋
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          五台橋周辺の見事な紅葉

 橋を渡り石段を上ると文殊堂、薬師堂が派手さもなくひっそりと建っている。周囲はクヌギ、コナラといった広葉樹に囲まれ、いま黄葉真っ盛りだ。カエデの紅葉は見当たらない。林の中に願掛け地蔵が多数置かれているのも風趣を感じる。 
 晩秋の日は瞬く暮れかかり宿に帰るが、平日のためか宿も客が少なく閑散としてわびしい。食事は部屋食でもう炬燵が入っている。女将があいさつに来てくれるが、客が少ないためか洋服のままである。
 少食の私はたくさん食べられないため、宿を電話予約する際、私から値切って1泊2食税込1万円と交渉した。夕食は御馳走が並ぶがそれでも1品食べ残してしまった。
 食後は終夜かけ流しの大浴場にひとり浸かる。
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            五台橋を渡った上にある文殊堂
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            薬師堂近くの願掛け地蔵

平成26年10月31日 (金) 曇り
 6時起床、入浴。7時、時を告げる文殊堂の鐘が黄葉の山肌を震わせる。朝食の給仕に来た女将の言うには、近年老人会の団体客がめっきり減った。60歳台ではみな働かなければならず、60代で老人会に入る人が少なくなり、世話役も高齢化しているので活動が鈍っていると嘆く。この宿は老人会を顧客基盤にしていたらしく、変わりゆく旅事情と世相の一端に耳を傾ける。
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            内山川に架かる緑橋

 8:30チェツクアウトして昨日に続き、文殊堂周辺で写真撮影をする。もっとほかの周辺も歩いてみたいのだが、昨日うまく撮れていなかったので、どうしても同じ場所にこだわってしまう。三脚を据えてとっていると何人かがカメラのモニターを覗いてゆく。まだ初心の多重撮影がうまくゆかない。夢中で撮っているとあっという間に11時前で、あわてて宿に帰り預けていた荷物を受け取り、11:04発のバスに飛び乗り11:51終点松本駅前に着く。

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